イチゴミルク  『LOVE×2な10のお題』より

 

進さんには短大に通う たまきさんというお姉さんがいらして、
ご紹介いただいてからというもの、瀬那も何かと構ってもらっている。
今時風に言えば、クールにしてシャープ。
そんな、凛としていてお綺麗なところを例外に、
実直寡黙な進さんとは大きく違っての、おしゃれで闊達な人であり。
だというのに、合気道の免許皆伝者でもあって、
怒らせたらば進さんよりも恐ろしいと、

 “桜庭さんが言ってらしたけど、ホントかなぁ?”

そのたまきさんからのお土産があるからと。
夏休みが明けたばかりの…まだちょっと残暑に町の空気がとろとろしている昼下がり。
Q街の喫茶店にて、向かい合ってる進さんとセナくんだったりし。

 「今日は練習は…? これからまた戻るんですか?
  はやや。
  あ、それじゃあ、ボクの方が王城まで出向いたらよかったですね。」

恐縮してだろう、小さな肩を縮こめているランニングバッカーさんへ、
ふるふるとかぶりを振って見せた、高校最速のラインバッカーさん。

 「これも、トレーニングになるから構わない。」
 「あ…と。そうですか。」

それならよかった、なんて。
恐縮ぶりが一気に晴れて、
てへへvvと ちゃっかりぶりを見せての微笑ったセナくんの笑みへこそ、

 「〜〜〜。////////

ちょっとばかり、視線が泳いで挙動が不審になった進さんだったりするのだが。
まま、それはこのところの いつもの呼吸だからさておいて。
差し向かい合っている間に置かれた小さなテーブルの上へ、
これをと、紙袋ごと差し出されたのが、たまきさんからのお土産であるらしく。

 「ありがとうございます。」

このお礼は、わざわざ持って来てくださった進さんへ。
たまきさんへも、後でメールしなくちゃですねと、
ふんわり微笑ったセナくん。
進さんも感想を聞かれるのではなかろうかと、袋の中を覗いてみれば、

 「あ、八ツ橋vv これ、ボクもお母さ…母も大好きなんです♪」

この頃ではいろんな味のがあるんですってね。
そうか、たまきさん京都へいらしたのか。
そんな風に口にしたセナに、

 「…京都だと、判るものなのか?」
 「はい?」

桜庭にも、同じのを渡したのだが、
包装紙にそんな図柄があるでもないのに、やはり“京都”と言い当てられたと。

 「大したものだな。」

桜庭はまだ、仕事の関係とかであちこちへ頻繁に出向く身だからともかく。
小早川までとはと、何だか感心されている模様。

 「…王城の修学旅行って、毎年どこなんですか?」
 「今年はオーストリアだと聞いているが。」
 「そうですか。」

卒業生や在校生に王族がいるって噂はホントなのかな。
だからの余計に、修学旅行のメッカを知らない進さんなのかしら。
そんな脱線も、まま今更なことなのでと頭から追い出して。

 「こっちは…、あ。」

平たい箱の陰にもう1つ、小さな包みが入っていて。
そぉっと包装紙をはぐと、無地の真っ白い化粧箱が入っており、
蓋を除いた中に入っていたのは、
かわいらしい小瓶に入った、

 「金平糖ですねvv

磨りガラスのような独特の色合い。
白いのをベースに、淡いピンクが混ざっているのと、
片やは水色のが散りばめているのとの2つ。

 「水色のはサイダー、ピンクはイチゴだそうですよ。」

いろんな味のがあるんですねと、箱に入っていたしおりを眺める。
葡萄にコーラに、メロンも?
あらあらと微笑ったセナだったけれど、

 「? 不思議なことなのか?」

これへは進がキョトンとして見せ、

 「…え?」
 「あめ玉にも色々な風味のものがあるではないか。」

なのに、同じような砂糖菓子の金平糖に、
色々な風味があるのはさも珍しいと言い出したセナだったので。
これはおかしなことを言うものだと、
そんな風に感じてしまったらしくって。

 「あ、や、えっと。///////

あやや、どう言ったらいいのかな。
頭をかしかしと掻いてから、

 「あのですね、進さん。」

セナはおもむろに説明を始める。
金平糖は、今時ならば機械を使っての工場で作ってもいるのでしょうが、
それでもこのイガイガをつけるには、独特の製法じゃあないとダメなんですって。
大きな大きな釜を熱しておいて、
その中でころころざらざらと転がしながら、砂糖を溶かした蜜を回しかけてくんです。
そうやっての少しずつ、かけた蜜を乾かしてのまとわせて、
最初は米粒より小さい芯へ、少しずつ少しずつお砂糖をまとわせては乾かして。

 「手作りの工房だと、このくらいにするのに2週間とかかかるそうですよ?」

それもつきっきりでと付け足せば、

 「…それは、凄いな。」

そんな作り方をするお菓子。
砂糖の微妙繊細な風味を殺さぬようにするだけでも大変だから、
あまりに突拍子もない風味のもの、
作ってみようって思うような職人さんはなかなか現れなかったそうで。

 「でも、実はボクも長いコト。
  このピンクのはイチゴの味だと信じてたんですよね。」

そこいらの駄菓子屋さんのなんだから、
そんな作り分けてなんかあるはずないのに、と。
くすすと楽しそうに微笑って、
小さな指先に摘ままれた緋色の星粒が、
やわらかそうな、やはり緋色の唇へと運ばれる。

 ぱくん、と。

ほのかに見えた白い歯に、こつり、当たって含まれて。
あ、美味しいですと、幸せそうに微笑ったセナの。
ふにゃいと細められた目許や、
口の端がにこやかに持ち上がっての、何とも言えぬ笑顔の方こそ、

 「…。///////

誰かさんの鋼の体躯、鋼の心臓をも射貫いて蕩かす、極上の甘味。

 「進さん?」
 「…小早川は何でも知っているのだな。」

え〜? そうですか?////////
たまたま、そうそう随分と前のお母さんの本に、
京都特集っていう取材記事が載ってたことがあったの、読んでただけですって。
褒められちゃったと頬を染め、うつむいてのもう一つ、
緋色の星屑を摘まんだ恋人さんへ、
これ以上の甘い笑顔は心臓に悪いかもと思いつつ、
それでも…愛らしいお友達と、視線を合わさずにはいられぬ白い騎士様だったそうで。


  いやまったく、早く涼しくなるといいですねぇ。
(苦笑)





  〜Fine〜 07.9.05.


  *実物の苺を潰して食べる方の“イチゴミルク”も
   その甘さは捨て難かったのですが、
   強引ながら、こっちへ持ってかせていただきましたvv
(苦笑)
   たまに食べたくなるのが、金平糖とお米のポン菓子でして。
   進さんやセナくんも、あれほどの運動量なんだから、
   油ものはともかく、
   砂糖や炭水化物はあっと言う間に消費しちゃうのではなかろうか。

    「そうか。だから甘いものが好きな小早川は、それでも太らないのだな。」
    「たはは…。///////
    「縦にも伸びねぇしな。」
    「身長は遺伝って聞いたけどもね。」
    「ほほぉ、じゃあお前と高見は同じ遺伝子を持っとるわけだ。」
    「…そういうややこしい言い方はやめて下さい。」

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